ベルリンのギャラリストから学ぶことと日本の貸画廊システムについて

      2017/06/20

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彫刻家の大黒貴之です。

現代アートの作家というのは制作した作品をどのように発表していくのでしょうか。

その一つはギャラリーという場所で展覧会を実施して発表すること。
また、そのギャラリーがアートフェアに参加し、
作品を販売広報することなどが挙げられます。
(他にも発表の場として、美術館やレジデンス、自主企画などいろいろありますが
ここでは、主にギャラリー事情について記述します)

美術に携わる人たち以外にはあまり知られていない
この現代アート事情を書いてみたいと思います。

あと、ベルリンで行われたアートフェア Preview / プレビューの様子もご覧ください。

ドイツのギャラリーはほとんどがコマーシャルギャラリー

SC-preview-01courtesy of the artist and Semjon Contemporary

ドイツには基本的に貸画廊というシステムはありません。
(数は非常に少ないですが、一部の貸画廊もあるようです)

ぼくの作品を取り扱ってもらっているSemjon Contemporary(セミヨン・コンテンポラリー)も
当然、貸画廊ではなく作品を販売し、経営をしている現代アートのコマーシャルギャラリー(画商)です。

セミヨン・コンテンポラリー・ベルリンのギャラリスト

ギャラリーのオーナーであるSemjon(セミヨン)さんは、
作品に対してとても厳しい目を持っています。

ぼくの作品もどれでもいいというのではなく、
良い作品、良くない作品をはっきりと言われます。

良くないときは、それは半泣きになるくらい批判されます。
逆に、良いときは、文句ひとつ言わずはっきりと良いと言ってくれます。

当然、批判されたときは、腹が立つこともありますが、
後々考えてみるとやっぱりもっと改正すべき点があったのだと気付きます。

彼は自分の顧客に作品を売ることによってギャラリーを経営している
プロのギャラリストです。

以前、彼が
「自分が100%良いと思った作品しか売らない」
とぼくに言ったことは今でもよく憶えています。

日本のギャラリーのほとんどは貸画廊

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日本の画廊は、ほとんど(8~9割くらい)が貸画廊という、
展覧会のためのスペースを期間貸して収入を得ています。

基本的に作品を売る営業はしないので、
画廊の多くの客は作家になってしまっているのが現状だと思います。

そこで展覧会を行う場合、通常は
貸画廊の場所代(場所の広さにもよるが大阪、京都で数万~20万くらい)
展覧会のDM代(はがきサイズを自分でデザインして7千円くらい)
切手代(1000枚の送付で約5万円)、
搬入出の運搬費など展覧会にかかる費用は全て作家持ちです。
当然、作品の材料代も含みます。

画廊の企画展のときは、場所代、DMの費用は画廊が支出をしてくれますが、
無名の若い作家が最初からいきなり企画展になることはほとんどありません。
(しかし、貸画廊が企画で展覧会を催すということは
その作家は、その画廊にとって一押しの作家ですので、
それは日本型のコマーシャルギャラリーと言えるのかもしれません)

いずれにしても、先にも書いたように、ギャラリーの本来の役割は、
作家の総合的なマネージャーであり、
展覧会を企画して、作品をアート界やマーケットに紹介、販売することです。

だから場所を貸すことが仕事ではないはずです。

日本においての貸画廊の役割とは

貸画廊というシステムができ始めた戦後の日本では
場所を提供する代わりにどんなことをやってもいいということから
彫刻は台座の上に置くものであるとか、絵を壁にきれいにならべて掛けるものという
概念から脱して、自由に作品が展示できるようになりました。

そこからインスタレーションという空間全体を使った
作品が生み出されることになりましたし、
実際に貸画廊での展覧会からコマーシャルギャラリーにつながっていき
世界で活躍する作家が出てきたことも確かです。

その意味では、日本で貸画廊というシステムは重要な役割を担ってきたと言えます。

貸画廊で展覧会をしたぼくの実感

また以前は貸画廊の場に、美術の学芸員や記者、作家たちが集まって
議論になったり情報交換の場になっていたといいます。

しかし、昨今では、全ての貸画廊を回る時間が彼らにはないので、
実際に作品を観に来てくれることはなかなか難しいのが現状です。

展覧会の期間中(通常実質6日間)の間に来る人たちは
100-150人程度で、そのうちの半分は作家のつながりです。

それに貸画廊も増えすぎましたし、
極端な話、お金を払えばだれでも展覧会ができるようになりました。

ぼくはそういう「貸画廊というシステム」に疑問を感じました。

ですので、先に書いたようなコマーシャルギャラリーのギャラリストや作家たちと
仕事をしたかったのでドイツに来ました。

日本にも少しずつコマーシャルギャラリーが増えてきている

自分も純粋にプロの彫刻家になりたかったのです。

(プロの作家についていろんな考え方がありますが、
ここでは、作品を販売して経営をしているギャラリーに
所属している作家のことを指しています)

だから、お金を払って貸画廊や貸しスペースで展覧会をすることはもうしません。

そんな話を東京のコマーシャルギャラリーに所属している日本人作家と話をしていると、
「最近は少しずつ若いギャラリストも出てきて、
東京のアート環境は変わりつつある」と話してくれました。

それでも新しいギャラリーが出てきても、なくなることが多いといいます。

それだけ作品を売って経営を成り立たせることはとても厳しいのが現実です。

しかしながら、そのような若きギャラリストたちが
今後も日本から出てくることを切に願います。

ベルリンのアートフェア、Preview / プレビューの様子

SC-preview-03courtesy of the artist and Semjon Contemporary

今回のPreviewは、思った以上にたくさんの入場客が来ていて少し驚きました。

入口のカウンターでは列ができていました。
オープニングのときには、人と人が当たるくらいに満員だったとセミヨンさんから聞きました。

Semjon Contemporaryの作品も
ぼくが彼のブースを訪れた時点で10点ほど売れていました。
(もちろん全く売れていないギャラリーもあります)

作家は良い作品をつくる。
そして、作品の価値を一緒に高めていってくれる目利きのギャラリストと
一緒に仕事をしていくことはとても大事です。

これは、日本でもドイツでも一緒です。

彼らは、現代アートを仕事として人生をかけています。

だから、自分にも厳しい。

そして、ぼくも人生をかけて、作品をつくっていかなければなりません。

そんな風雪の環境の中で、ぼくも作品をつくって、
人前に出すことに喜びを感じています。

こちらにきてから、1年半が経ちます。

耳を塞ぎたくなることもあるし、
少し心が折れそうになることもあります。

しかしながら、ドイツに育ててもらっているということを感じています。

そして、FBなどを通じて日本の皆さんから
いただく声援からは、 たくさんの元気をいただいています。

関連記事:「現代アートにおいての重要な職業ギャラリスト。ーベルリンのギャラリストとの交流からー 」
関連記事:「ギャラリストとアーティストは二人三脚で新しい音色をつけていく」

SC-preview-04courtesy of the artist and Semjon Contemporary

2012年9月の記事「風雪の中で」を加筆添削しました。

Author by gross-schwarz

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