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彫刻家の大黒貴之(@takayuki_daikoku)です

日本は「神仏習合」の文化だと言われます。夏は墓参りに行きますし、正月には初詣。それに12月にはクリスマスもあります。さらに近年では、ハロウィーンまで開催されます。今回はこの「神仏習合文化」を持つ日本の中から醸成された「もののあわれ」について考えてます。

漢字からひらがなへ。「ひらがな」を生み出したのは女性だった

日本は、宗教や文字、画、料理に至るまで中国やヨーロッパなどからやってきた文化を取り入れてきました。そしてそれらを日本の中で再編集し熟成するというアクロバティック的な試みを1300年以上も行ってきました。日本は世界的には珍しい文字文化を持っています。漢字・ひらがな・カタカナという3種類の記号を巧みに使い分けているのです。ご存知のように欧米ではアルファベットの1種類の記号しかありません。ドイツ滞在時によくドイツ人から「なんで日本語は3種類も文字があるんだ?」と訊かれました。

日本にはもともと「ひらがな」や「カタカナ」という記号はありませんでした。漢字という記号が中国からやってきました。日本神話が初めて書かれた日本最古の書物が2冊あります。
1冊は中国から伝来した漢字を用いて書かれた書物「日本書紀」そしてもう1冊は「万葉仮名」という漢字の当て字を使って書かれた書物「古事記」です。

万葉仮名というのは、例えば「夜露死苦」のようなものだとイメージしてください。この万葉仮名を今のような「ひらがな」に変化したのが8世紀末から12世紀(794-1185)にかけて花開いた平安時代でした。この時代に、仏教によって伝来した中国の漢字が日本的再編集が施されて昇華したのが「ひらがな」です。そして現在では、ひらがな、カタカナ、漢字、それに英語までが一緒になって文章が構成されています。まさに神仏習合です。

で、このひらがなですが、これを発明したのは平安時代、宮廷にいた女性たちだったと言われています。当時の男性たちは漢字しかも漢文を使っていたわけです。一方で、ひらがなは丸みがあって優しい感じがします。そのひらがなの発明によって誕生した概念が「もののあわれ」にもつながっていきます。

その集大成が「源氏物語」です。世の中が移ろいゆく無常観や儚くて、せつなくて、弱いものを愛おしむ心・・・あぁ、男女の恋って、本当に無常なもの・・・。孤独な人や切ない人と指して、よく「あわれ」だねぇと言います。それに「もの」という霊、つまり魂のようなものがくっついて「もののあわれ」「魂が儚い様」となります。

「もののあわれ」はその儚さや切なさに眼差しを向けた美意識なのです。

 

「もののあわれ」の神髄「満開の花」より「散っていく様」が美しい

日本人は春になると花見をする人たちが大勢います。桜は1年のうちにたった2週間ほどしか開花しません。1年のたった2週間に命一杯咲き誇り、そして散っていく。日本人が見ている美しさはもちろん桜が満開に咲いている光景もありますが、美意識をくすぐられるのは、「桜が散っている様」なのです。この「もののあわれ」という概念はとても重要で日本文化の根底に流れている概念だと思います。

ヨーロッパにも、枯れた花を描いている絵画がありますが、それはまた少し意味合いが違っていて、この場合は、生に対する死への想いを描いているのです。いわゆる「メメントモリ(死を想え)」的なプロセスで描かれたものです。

すべてが止まることなく永遠に移り変わっていく。

そのプロセスに現れる儚さや切なさが美しい。

仏教の根底に流れる「無常」に通じるところがありますし、それが日本の中で見事にアレンジされて生み出された美意識が「もののあわれ」という概念なのです。そしてこの概念は、後に登場する「侘び・寂び」の概念にもつながっていきます。


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↑ヨーロッパは足し算の文化、日本は引き算の文化だと言われることがあります。
この日本の引き算的思考はどのようなものに反映されているのでしょうか?
その1つの概念に「侘び寂び」の美意識があります。


参考文献


 

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