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彫刻家の大黒貴之(@takayuki_daikoku)です。

2011年夏、ベルリンのマーチン・グロピウス・バウという美術館で行われた北斎展は世界中から彼の作品が集結した大回顧展でした。今でこそ、そのような展覧会が企画され多くの鑑賞者たちが集い、また美術作品としてコレクターに蒐集(しゅうしゅう)される浮世絵。しかし、浮世絵が流行した江戸時代は、かわら版、歌舞伎の宣伝用ポスター、花形役者のプロマイドなどとして庶民に親しまれていました。

ジャポニズムで世界的に名高い日本の浮世絵は梱包材だった?

浮世絵
Photo credit: The Library of Congress via Visualhunt / No known copyright restrictions

今で言うと、新聞や雑誌の写真、映画や舞台などのポスターのようなものです。現在では写真技術が確立されていますが、当時は量産できる木版の技法を利用して情報を視覚化し、多くの人たちの手元へ届けていたのです。どうして、ヨーロッパで浮世絵が広まったのかというと、そもそもは、江戸時代に茶碗などの陶器が日本からヨーロッパに輸入されていて、その際、陶器が割れないよう、緩衝材として使われていたのが浮世絵だったのです。クシャクシャに丸められた紙を広げてみると、そこには日本の自然や人々の生活風景が鮮明な色使いで活き活きと描かれているではありませんか!

セザンヌやモネをはじめとする印象派の画家たちやゴッホも浮世絵を眺めて、えらく頭を揺さぶれらました。彼らのいくつかの絵には、浮世絵が取り込まれています。ゴッホは、「あ~、日本に行きたいなぁ」と常々言っていたそうです。王侯貴族から市民へ主権が移行する歴史背景や油絵具を使った重厚感のある絵に行き詰まりを感じていたパリの画家たちには、浮世絵の構図や平面性、色使いに革新的さを覚えたのです。江戸時代の日本では、単なる消耗品として捉えられていた浮世絵は、西洋人によって美術作品として評価され、世界中に広まっていくことになるのです。

先に書いたように、浮世絵は、ある西洋人が発見し、そして評価したことによって、美術作品として再構築されました。美術(アート)というのは、いかに人の心理や時代背景、美術の文脈が
作用しているのかということがうかがい知れます。しかし、魅力ある作品と人々の心理が絡み合う物語は、人を引きつけ、またそれはミステリーでもあるのです。

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