侘び・寂びの美意識から見える日本文化の引き算の美学:わびしさの中にこそ美しさがある
彫刻家の大黒貴之(@takayuki_daikoku)です。
突然ですが、あなたは数字には明るいほうですか?
私は数学というものは苦手なのですが、足し算、引き算、掛け算、割り算くらいならできます。
ヨーロッパは足し算の文化、日本は引き算の文化だと言われることがあります。ヨーロッパの建築や街並み、歴史を見ているとそれは1つずつ構築されてきた足し算の文化なんだということがなんとなくわかります。また論理に基づいて、哲学や音楽を構築してきたドイツの歴史を鑑みても足し算の文化を伺うことができます。
ところでこの日本の引き算的思考はどのようなものに反映されているのでしょうか?
その1つの概念に「侘び寂び」の美意識があります。
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禅の精神と枯山水。水が無いが故に水を感じる
禅は鎌倉時代に、中国から日本に入ってきた仏教思想です。
そしてそれは当時の武士たちの精神性ともうまく合致し日本で普及していくことになります。
禅の概念を具現化した代表的なものが竜安寺などの石庭です。石庭の代表的なつくりに「枯山水」というものがあります。この枯山水はまさに引き算の美学です。最小限の素材を使用しほとんど何ものない状態にすることによって、水や山などの自然を感じさせる空間をつくりだしています。
例えば金閣寺のような豪華絢爛な建築と庭から味わう贅沢さではなく、銀閣寺のような質素であるが故に贅沢であるという感覚です。
「何もないからこそ、最高の美を感じる」という逆転の発想です。
茶道の世界を究極まで高めたのは千利休でした。
田舎の足軽から天下人にまで昇りつめた豪華絢爛の象徴である秀吉。
利休茶道の「侘び寂び」思想はいわば秀吉が信じてきたことを否定するような問いをチクリと彼に投げかけました。
・・・・・・・・・・・・・・
秀:「利休よ、ワシも天下人になったことじゃし
美というものを極めたいと思っているのじゃ。
茶道は美を追求するのにふさわしいものだというが、
その道とはどういうものじゃ?」
利:「秀吉さま、美とは何もない侘しさから
生まれてくるものなのであります」
秀:「何?それではワシがこの天守閣につくった
この部屋とかこの衣装はどうなるのじゃ?
金ピカで絢爛なものじゃが?」
「何も無いから美しいなんて言ったら
ワシがこれまでやってきたことと
これから求める茶道の美とは矛盾するではないか!ええぇ!」
利:「そ、それは・・・いや、ぁ・・」
秀:「貴様~、ワシがこれまで行ってきたことを
否定するのじゃな?」
「そんなことを肯定したら、
茶道をする武士たちもワシの考えと相違していくではないか!きええぇ!キッ!」
利:「・・・」
秀:「ええぇ、なんで黙っとるんじゃ!キキッ!」
とまぁ、このようなやりとりがあったのかどうかは完全な私の妄想です。
しかし、利休が茶道を極めるほどに、権力が求める美意識とは相反していくことになったのでしょう。
それが分かっていた利休はまさに命がけで茶道に徹していたのだと思います。
けれども最後は秀吉に切腹をするよう追い込まれてしまいます。
時の権力を脅かすほどの「侘び・寂び」の美意識は本当に恐るべしです。
そして「侘び・寂び」は俳人の松尾芭蕉へ受け継がれていく
その後、「侘び・寂び」精神性は後の江戸時代に活躍した俳人、松尾芭蕉にも受け継がれてきます。
例えば、
「古池や蛙飛び込む池の音」
耳をキーンとするほど静寂さが漂う古い池。
その畔に1つの大きな石が転がっている。
おっ、よく見るとその石の上には1匹の蛙がいるね。
しばらくするとその蛙が池に飛び込んだ。
その刹那
「チャポーン」と弾む音と
鏡面のような池にスパッーっと広がっていく波紋。
その瞬間はまるで永遠の時間を感じさせるようだね。
「夏草や兵どもが夢の跡」
またここで戦があったのか。
勝った側も負けた側もそれぞれの夢や希望を持ち
大義名分を抱えて戦ったんだろう。
でも戦が終わってみると一面には多くの亡き命。
その周辺には、夏草が伸び、自然のサイクルが
何事もなかったかのようにただただ続いていく。
本当に無常なものだ。
・・・・・・・・・・・・・・
それにしても本当に美しいものです。
たった17文字で構成されている文章なのに、頭の中で物語がバァアアっと広がっていきます。この「侘び寂び」の思想も中国の禅とそれまでの日本文化が編集されて出てきた概念なのです。
そう考えると欧米で培われた現代アートというものも、日本の中で再編集されているように私には映ります。例えば、侘び寂び的ミニマルと欧米のミニマルアート。どちらもミニマルなのですが、それぞれのアプローチは異なるようです。
それしても「もののあわれ」や「侘び寂び」の美意識。
やっぱりとてもカッコいいです!
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↑「神仏習合文化」を持つ日本の中から醸成された「もののあわれ」について考えてます。
参考文献
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