ドローイングはスケッチではなく「前兆」或いは「予兆」である

      2016/11/30

彫刻家の大黒貴之です。

ドローイングという言葉は日本では
まだそれほど馴染みがないのかもしれません。

以前、日本で展覧会を行ったときに
「ドローイングってなんですか?」という質問を多々受けました。

ドローイングは日本語で「素描」と翻訳されています。

彫刻家の福岡道雄さんがかつてぼくに
「ドローイングというのは、彫刻では表現できないものを描くものだ
少しカッコよく言えば、彫刻の素材になった木が、まだ山にあったとき
その木に当たっていた風であるとか、山の声であるとか・・・」
そのように説明してくれました。

ドローイングは作品のスケッチではない

ドローイングとは
ぼくがドローイングについて知ることになったのは第一次渡独の時でした。

ベルリンで知り合ったH.N.セミヨンというドイツ人作家に
「君は彫刻家なんだから、ドローイングができたほうかいい」
と言われたのがその切っ掛けでした。
参考記事:「一人のドイツ人との出会いによってぼくの作家人生は変わった」

グループ展に出品するための作品を制作していたぼくと
彼が出会ったのは、2002年の夏頃でした。

彼がぼくの作品を気にいってくれて、彼のアトリエ兼プロジェクトルームに
招待してくれました。そこから定期的に彼の下に足を運ぶようになり
ドローイングのレッスンを受けることになります。

「ドローイングは作品のスケッチじゃないんだよ。
作品の新しい領域を発見するための機会になるし、
特にスランプに陥ったとき、ドローイングをすることによって
いち早くそこから脱出することができるんだ」

2011年にドイツに再び渡った時も
作家としてのスタイルを再構築するために
徹底的にドローイングをしました。

その中でぼくが「あっ、ドローイングってこういうものなのかな」と
気づいたことがあります。

ドローイングは、作品のためのスケッチではなく、
作品が姿を現すずっと以前にある「前兆」
もしくは「予兆」のようなものだと。

今では、ぼくのギャラリストでもあるセミヨンさんは、
それを「作品の本質的特徴」だと論じています。
参考記事:「現代アートにおいての重要な職業ギャラリスト。ーベルリンのギャラリストとの交流からー」

2011年、ドイツに渡った後、
この先どうなるかもわからない不安の感覚は、
まるで迷路の中をさまよっているようでした。

その間に出てきたドローイング、「O.T.(SC08-2011)」
ドローイングO.T.(SC08-2011)
当時のぼくはそのドローイングが何を表しているのかわかりませんでした。

目の前の暗闇にアメーバーのように、
ドロリというかフワリというか、
そうニュルリと出てきたぼくのドローイングは、
5年後の2016年、大船渡市盛町の水野酒店横にある蔵前に
彫刻「whitedorps & blackline No.4」として具現化することになります。

彫刻「whitedorps & blackline No.4」01
ドローイングと彫刻作品がいつ繋がるのかはわかりません。
明日かもしれないし、数年後、何十年後、或いは実現しないのかもしれません。

それはまだ作品として形成されるずっと以前、
作家の目の前にボワァっと浮かんでくる一瞬の「予兆」を描き止めたものなのです。

彫刻「whitedorps & blackline No.4」02

Author by gross-schwarz

Instagram

- Instagramもやっています -


人気記事 5選

1
アートは自由がいいのか?ルールがあるほうがいいのか?日本と世界の現代アートの環境は乖離している。

アートは自由だと言われますが、大切なことは発想や想像の自由であって、なんでも有りの自由だということではないと思います。ルールがあるからこそ面白く、また感動することがあるのです。

2
ギャラリストとアーティストは二人三脚で新しい音色をつけていく

作家とギャラリストの本当に良い関係は、近すぎず、そして遠すぎず、お互いをリスペクトし、信頼、感謝できるものでなくてはなりません。ベルリンのギャラリーと仕事をしながら想うこと。

SC-preview-04 3
ベルリンのギャラリストから学ぶことと日本の貸画廊システムについて

現代アートの世界で制作した作品を発表する場所の一つとしてギャラリーが挙げられます。しかし日本とドイツのギャラリー事情は違うようです。美術に携わる人たち以外にはあまり知られていないこの事情を書いてみたいと思います。

renmen Ensemble (outdoor), 2015, Variable ,Mixed Media  (Land Art Schlosspark Wagenitz) Photo : Takayuki Daikoku 4
「圧倒的な異質性」が現代アートの一つのキーポイントになる

現代アートは、対象物をうまく描けるとか具現化できるかというところで勝負をしているのではなく、キーワードの一つに「圧倒的な異質性」を押し出すことができるかどうかが一つの勝負所ではないかと考えています。

ギャラリスト 5
現代アートにおいての重要な職業ギャラリスト。ーベルリンのギャラリストとの交流からー

現代アートのギャラリストとはどのような仕事をするのでしょうか。ベルリンのギャラリスト、H.N.セミヨンさんとの交流から垣間見たぼくの一場面です。

 - 現代アート, 彫刻, ドローイング