彫刻家の大黒貴之です。
作品を制作していくうえで、作品をつくる環境を整えることはとても大切です。
学校を出てから作家として歩み出す時、
一番最初に考えることは仕事場の確保のことではないでしょうか。
自宅の一室で作品をつくることも可能ですが、
良くも悪くもついつい気が散ってしまうことは多いにあります。
どこでもできると言えば、そうなのですが、
ある程度外界と隔離し、制作に集中できる静かなスペースはやはり大切だと思います。
2011年の春、ドイツに渡ってから1年半くらいは仕事場を探し続けていました。
当然、右も左もわからないラーテノウという小さな街に住み始めたわけですから、
どこになにがあるのか。まだ誰がいるのかさえ分からない状況でした。
当初は自宅のリビングの半分を制作スペースにして絵画やドローイングを制作していました。
今振り返るとまだ子どもがいなかったのでできたことだと思います。
その後、子どもが誕生するのと入れ替わるように仕事場が見つかり
その仕事場で制作ができるようになりました。
ドイツでの彫刻作品が急速に増えていったのもこの頃からです。
それからベルリンのセミヨン・コンテンポラリー
というギャラリーの所属作家になることができました。
制作がしっかりとできる環境がないとギャラリー側として安心できないのも頷けます。
大学在学中は、制作場所や機械のことなど何の心配もありませんでした。
しかし、ある日ふと思ったのですが、
「学校を出てから、このスペースと機械はどうやって確保するのだろう」と。
そんなことを同級生たちに漏らすと
「いやいや、学校にいる間にしかできないことをやるのが大事」と言います。
確かにそれも一理だと思いましたが、
ぼくは学校を出てからも最低限の道具があれば制作できる彫刻をつくろうと考えました。
制作をする環境を整えることが出来なければ制作を進めていくのは難しいものです。
それは制作スペースだけの問題ではなくて
経済的なことや周囲の理解、活動や作品への賛同者を得ることなども含まれています。
もちろん、全ての環境が完璧に整ってから制作をするのは不可能です。
「制作を進めながら、環境を整えていくこと」が大切なのです。
あなたが今、自分がしたいことをできる状態にあるとしましょう。
しかし、もしも「私だけが好きをことをやっているから周囲に申し訳ない」と
思っているのなら、それは無用です。
それはとてもラッキーなことなのです。
多くの人は、その環境に入ること自体が難しいのです。
その状況にあるのなら全力で自分ができることに挑んでいくべきです。
なぜなら、その環境を確保できることは作家としての一種の才能でもあるからです。
そして、それは仕事を進めて行くうえで最も困難な「継続」にもつながっていくのです。
ドイツ、ブランデンブルグ州のフリーザック市のアトリエで制作をしていた時の様子。
ぼくは、ドイツ滞在中、この町のアトリエで約4年間、制作に集中できました。