彫刻家の大黒貴之です。
以前、ある彫刻家にインタビューを行いましたが
今回はその続きです。
作家の心構えや制作のプロセスなどを尋ねてみましたが
最終的に、作家は鑑賞者に何を見せているのでしょうか。
もしくは何を共有しようとしているのでしょうか。
Photo via Visualhunt
A:インタビュアー B:彫刻家
A: 前回、あなたは彫刻やドローイングなど
何かしらの形で表現をしていかないと
心身に支障が出てくるとおっしゃれらました。
B: ええ。
A: 例えば、その中のドローイングを拝見したのですが、
その一枚を観ても「何だ?これは?」という気持ちが先ず芽生えたのです。
そのような見え方というは間違っているのでしょうか?
美術館などでは、作品の意図や説明が先ずあることが多いのですが・・・
B: おっしゃる通りぼくの作品を一点だけ見ても
何だかよくわからないと思います。
なぜなら、すぐにはわからないように制作しているからです。
A: といいますと?
B: 例えば、恋愛に例えると、好きな異性ができたとして
何も知らないその人をもっと知りたいと思うのは当然でしょう。
その人の声はどうなのか?好きな食べ物は?好きな色は?
何に興味があるのか、趣味は、仕事は、手のぬくもりは・・・
と挙げればキリがありませんよね。
でも、その異性のことがすぐにわかってしまったらどうでしょうか?
A: そうですね、なんだか・・・
B: ドローイング一点だけを見るというのは
先の例え話でいうとその異性のほんの一部しか
みてないのと同じようなことではないでしょうか。
あと「何だ、これは?」的感覚というのは
初めて体験する時に起こる感覚だと思います。
人は、それまでの経験に無い物事を
目の当たりにすると「何だ!これは?」という感覚になる。
つまり、それは不安の感覚と言っても良いでしょう。
A: そういわれてみれば、初めて訪れる場所や
今までにない新感覚の食べ物なんかを食べると
「何だ?これは?」ってなりますね。
B: 不安になったり、それに対する拒否反応は
原始の時代から人が持つ危険察知の本能のようです。
しかしその一方で、人は新しい物事への好奇心や
挑戦する本能も持っているのです。
そのような人たちはいわゆる
「イノベーター」という呼ばれるような人たちですね。
A: ところで、あなたは彫刻やドローイングなどの作品を制作をして
最終的には鑑賞者と何を共有しようとしているのでしょうか。
B: わたしが制作をすることによって何を作り出そうとしているのかというと
それはわたしが観ている「世界観」をつくり出しているのです。
A: といいますと。
B: この世界観は、アート作品をつくる作家だけでなく、
スポーツ選手、職人さん、そして武道家の方などにも
共通するとわたしは考えています。
その人たちの「世界観」が人々を感動させ
そして同じ光景を見たいと願い
その選手のプレーを見たり、師匠に付いたり、
またその人に教えを乞うのではないでしょうか。
A: 山の上から見える景色を見たければ、
その人と同じ地点に立たないとその景色を見ることができない。
B: ええ、それに類似しているかもしれません。
A: 作家の世界観というのは
どのようにすれば観ることができるのでしょうか?
B:一番良いのはやはり個展を見ることでしょうね。
A: やはりそうですか、実際の作品や
展示されている空間を体験することですね。
B: それが美術館や野外彫刻展などの展覧会になると
そのスケールや世界観の伝わり方がさらに増します。
A: その世界観というのは、
いわばその作家のスタイルのようなものなのでしょうか。
B: ええ、その世界観の構築は
やはり長い年月がかかるものです。
作家の活動は、1年2年で終わるわけではありません。
30年40年の長い年月をかけて
世界観を構築していくのです。
そして30年後に振り返ったとき、
その作家の世界観の全貌を眺めることができるのでしょう。
A: そのような世界観はなぜ見えるのですか?
B: それは率直にそのような光景が目の前に見えているからです。
その風景をドローイングという手法で描きとめたり、
彫刻やインスタレーションで空間を作り出すのです。
どのような世界観がこれから構築されていくのか
作品やわたしの文章なども含めて、
一緒に眺めてくださればとても嬉しく思います。
そして先にも述べたように
わたしの作品を観て「何だ、これは?」という感覚になり、
観る人によっていろいろな解釈を誘発させるような作品を
つくっていきたいと考えています。
A:「世界観」とは、つまりその作家の生き方を通じたものや社会の見方を
具現化したものなのかもしれませんね。
B: まさしくその通りだと思います。
A: 前回との2回に渡ってのインタビューありがとうございました。
B: こちらこそありがとうございました。