彫刻家の大黒貴之(@Gross_Schwarz)です。
創造性の考察、第一回目では、デザインとアートの表現プロセス、
第二回目は、音楽においての創造性について書きました。
第三回目は、人工知能が台頭していく将来
人に求められるものは何かという考察です。
このシリーズの最終回になります。
これまでの考察から、
現代において、作家が自分の内から秘めたるものに向き合い
「これまで誰も見たことのない何かを生み出すんだー!
うりゃぁああ~!!」
という作家は、きっといなくなってくるでしょう。
なぜかというと、向きあっている「それ」って
自分がそれまでに構築してきてデータベースであり
ウーンとうなっているのは、そのデータベースから
何を引っ張ってきて、結合させようかと
悩んでいる行為だと思うからです。
そのようなことは、これからの時代、
きっと人工知能にまかせていくことになるでしょう。
知識や情報をベースに、情報処理することは
コンピューターがもっとも得意とすることですから。
前回にも書いたように、音楽世界では、その曲を人がつくったのか、
コンピューターがつくったのか人はもう区別できません。
そういえば、最近、知ったのですが、
AIがレンブラントが描いた全作品のデータを読み込み
学習し、レンブラントが描くであろう新作を完成させたのです。
しかも、油独特の凹凸までも再現したそうです。
AI、3Dプリンター路線は、ここまできたのかと。
「機械学習したAIがレンブラントの”新作”を出力。
絵具の隆起も3D再現した「The Next Rembrandt」公開」
アムステルダムでレンブラントの作品を観たことがあるのですが、
この絵が、彼の絵画として美術館に展示されていても、
ほとんどの人たちはAIが描いたとは思わないでしょう。
それは
「蓄積されたデータベースから、どのような情報を取りだすのかというチョイスと
何と何をどのように結び付け再構成をするのかということ」
そして
「その結び付けたものを活かして、どのように未来へ挑戦していくのかという行為」
または
「多くの人たちに見落とされているような社会の「盲点」を発見すること」
だとぼくは考えます。
そのような行為は目下、人しかできません。
コンピューターは過去の膨大なデータを読み込み
傾向や質問に対して最適な答えを提示することはできますが、
じゃ、これとこれをつなげて、
このような新しいことに挑戦してみようということはできないからです。
将来的には、きっと芸術大学も無くなっていくだろうと予測しています。
デッサンを描けて、有名芸大に入ったからといって、
必ず売れる作家になれるとは限りませんし、
先のレンブラントを再現した事例のように
上手い絵は、すでにコンピューターにも描けるほどになっています。
ただ、「多角的に物事を観察する能力を高めることができる」という点において
そのトレーニングはとても大切だと思います。
デッサン力というのは、物事をいろんな角度からとらえて
再現するという行為だとぼくは思っています。
ですから、作家は、制作しているときに以外の時間がとても重要だと僕は考えます。
何を見聞して、何を考えるのか、何と何を結びつけることが可能なのか。
スティーブ・ジョブスは、雑誌のインタビューの中で、
「創造性というのは、物事を結びつけること(コネクション)にすぎない」
と述べています。
ダーウィンは、進化論を執筆する際に
ガラパゴス諸島で独自の進化をした生物と
当時、有名だった経済学書「人口論」の「人口過剰」と「経済的弱者の淘汰」という考え方から
「生物も同じように自然淘汰された中から強いものが生き残っていく」という進化論を結論づけたそうです。
同じように
数学界の100年の難問であった
ポアンカレ予想を証明したロシアの数学者グレゴリー・ベレルマンは
それを証明するのに、数学に加えて、物理学の知識も導入したとされています。
また、ニュートンは、引力をリンゴの落下と結びつけました。
一見、全く違うものように見える事柄の本質を見抜き
それをつなぎ合わせることはとても難しいことなのです。
それが新しい領域の発見になりますし、
そこからまた新たなミステリーが生まれてくるのだと思います。
「一見全く違う物事のように見える物事の本質と本質をつなぎ合わせること」や
「多くの人たちに見落とされているような社会の歪や穴のような「盲点」を発見すること」
が芸術家にとってますます重要な仕事になってくるとぼくは考えています。
そして、物事をコネクションし、未来に対して挑戦し続けていくことは
AIと共存していくうえにおいて、
全ての人に求められることになってくるのではないでしょうか。
参考文献