
SEMJON CONTEMPORARY | H.N.SEMJON
Takayuki Daikoku – Ceres and Folded Drawing Dot
2024年10月18日- 11月23日
Semjon Contemporary Belrin
長い展示休止期間(主にコロナの影響によるもの)を経て、滋賀出身の日本人アーティストがベルリンに戻り、最新作を発表いたします。
今回の展示では、ベルリンやドイツの美術ファンにとっては既に馴染みのあると思われる2つの作品群を紹介します。1つは木を彫って制作された木彫彫刻シリーズで、今回の展示では「Ceres(ケレス)」という作品シリーズに焦点を当てています。もう1つは最新作の「Folded Drawings(フォールド・ドローイング)」です。会場後方の小部屋(カビネ)には、過去の作品もいくつか展示されており、ほかのギャラリー作家たちの作品とともにご覧いただけます。さらに大きな写真作品では、作家のランドアート・プロジェクトが示唆されています。これらは現在も、メクレンブルク=フォアポンメルン州のラインスベルク郊外にあるヴェーゼンベルク彫刻公園や、リベック近くのヴァゲニッツ城公園の小さな半島、そしてホーエン・ノイエンドルフ/ビーケンヴェルダーのスカルプチャー・ブールヴァールでご覧いただけるものです。
「Ceres(ケレス)」はローマ神話における農耕と豊穣の女神で、古代の表現では果実(角形の器=コルヌコピア)や松明、蛇、麦の穂の冠といったモチーフを持つ姿で描かれてきました。2016年に刊行されたギャラリー・カタログ『Kunst und Natur(芸術と自然)の結婚』にも記されているように、この「芸術と自然の融合」というテーマは、この作家の制作姿勢をよく表しています。たとえば、植物の実や木の実のような自然のかたちに着想を得て、球根や木の実を連想させる形を彫り、ぶどうの房のように組み合わせて吊るしたり台座に置いたりして、鑑賞者と対峙させています。単体で見ると内側に開く卵形の彫刻(双子あるいは三つ子のような形になる場合もある)を「Ceres」と呼ぶのは、卵という根源的なかたち、すなわち生命の起源を表現していると見ることができます。そこにローマ神話の女神の名を重ねることで、新たな抽象的・植物的イメージを帯びさせているのです。
もう一方の作品シリーズである「Folded Drawings(フォールド・ドローイング)」では、高さの稜線がそびえ立つように思える白いラインが、濃いアンスラサイト(黒に近い灰色)の背景に浮かび上がり、まるで雪をいただく山脈のように見えます。視線を動かしていくと、それらの折り目が紙を引っ張るようにして起伏を生み、紙の表面を盛り上げたり沈み込ませたりしていることに気づきます。中央付近を有機的な線で走る緑や赤の道筋は、幾何学的な印象をもつ白い「筋」に入り込みながら、それらの下に存在する細胞構造のような網目を取り込みます。丸く抜き取られた穴からは背景が覗き見え、さらにその下層には、小さな丸い穴がずれた形で開いていることもあります。そうした正確に打ち抜かれた幾何学的なかたちと、赤・緑・青(RGB)の3色を中心とするやや粗い生物的形状との組み合わせが、非常に独特なコントラストを生み出しています。この作品で使用される紙は、1枚25×25cmという大きさのものを緻密に仕上げたもので、一見すると大きな全体のごく小さなパーツのように見えます。そして作家は、96枚ものこうしたパーツを組み合わせ、厳密に構成された世界を作り上げています。実は2018年にも、180×283cmサイズの三連作(トリプティック)をギャラリーで発表しており、今回は200×300cmのまとまりのある作品を披露しています。いずれの作品にも「RGB」という文字がタイトルにつけられており(RGBとは印刷技術の分野などで知られる「Red, Green, Blue」の略)、これは主に制作プロセスや使用する色に由来しているようです。
この「Folded Drawings」シリーズは、2016年に作家が取り組み始めて以来、日本でも多くのコレクターを獲得してきた多彩な作品群を形成しており、いまも新作が続々と生まれています。折り目をつけた紙にアクリル絵具を塗り、その柔らかい段階で筆の柄を使って描画し、最後にグラファイトを施すという独自の技法によって、紙は革のようなマチエール(質感)へと変化し、作品は半立体的なオブジェに近い存在感を得ています。最終段階で施されるグラファイトが、折り目やアクリルの下地、筆の柄による描画跡を内包した紙の表面に、マットでありながら深みのある光沢を与えます。アクリル絵具の下地はわずかに透けて見える程度で、紙は厚くしなやかな革のような質感を帯び、ほとんど立体作品のようにも感じられます。今回の展示では、大きなメイン作品のほかに、作家がアトリエで現在制作している小品もいくつか出品されます。
展示の中心となる2つの作品群に共通する、触覚的かつ立体的な魅力は、独特の世界観を生み出しています。そしてその世界観は、穏やかな調和をもって私たちの前に立ち現れます。多くの葛藤や解決困難な問題が目立つ今の社会の中で、こうした作品たちがもたらす静かなやすらぎは、私たちにとっての大きな慰めになるのではないでしょうか。
2024年10月 ベルリン
Semjon H.N. Semjon



