自然と芸術の融合:「GARDEN」展に見る生命の循環と日本の美学
個展「GARDEN」序文
イギリスのメン・アン・トール遺跡は「穴の開いた石」という意味で知られ、花崗岩で形成された柱と穴がコーンウォール州の草原の中に佇んでいます。彫刻家、アントニー・ゴームリー⽒は、彼の著書「彫刻の歴史 先史時代から現代まで」で、この遺跡の柱を男性の象徴、穴を女性の象徴として捉え、潜在的な再生の場として解釈しています。柱は古代からさまざまな文化において、生命の根源的なフォルムとして理解されてきました。そのことはトーテムポール、クメール王朝のリンガ、日本の御柱、そしてブランクーシの無限柱など、多くの例で示されています。
“GARDEN” 展では、花、蕾、⽊の実、種⼦、卵、細胞など⾃然界に⾒られる事物を再構築したような有機的な彫刻が、棚を彷彿させる台座、⽊枠の内側、或いは壁⾯に配置されています。それらの作品の背景には、⾃⾝が幼少の頃に見た田園の稲穂、山川の樹々や植物などの形状、琵琶湖の風景に触発された記憶によるものだと推測しています。私の彫刻は、シンプルでありながらも原始的で根源的なフォルム、例えば、穴が開いている円形、柱、もしくは雫のような要素が見られます。またはそれらのパーツを組み合わせて個別の彫刻を構築するというアプローチが試みられています。展示されている彫刻の中には、琵琶湖のヘソと言われる西の湖(にしのこ)で育成された淡水真珠を取り入れています。真珠はイケチョウガイの幼生から育てると採取するまでに約6 年の年月を要します。それはまさしく湖と貝の時間の蓄積の上に成された自然の宝石であり、琵琶湖の象徴と言えるでしょう。
アジアの極東に位置する島国の気候や環境から⽇本⼈の⾃然を愛でる眼差しや畏怖の念が可視化された事物として、権現にみられる⼟着の神々を具現化した仏像、円空彫刻、禅庭、回遊式庭園などが挙げられます。上下左右に視線を交差させながら周囲をめぐり、作品との対話を誘うGARDENは回遊式庭園の概念を暗⽰しています。若き頃のリチャード・セラ⽒が京都の禅寺の庭を⾒て、「彫刻とはその周囲をめぐることのできるものであってもよい」と実感したという史実を参照すると、GARDEN全体を⼀つの彫刻として捉えることも可能です。
⾃然的多様性が⽣み出すしなやかな⽣命の循環から形成される形や構造を還元し、それらの視覚化を試みた作品からは、全体と部分、有機性と無機性、上昇と下降、点と線、⼆次元と三次元などの⼆重構造が浮かび上がります。「⾏為」や「素材」を意識し、異質なものが併存する間に発⽣する調和美への探求は、私の制作における重要なモチーフとなっています。
2023年11月
大黒貴之
個展「GARDEN」
2023年11月17日(金) – 12月9日(土)
MARUEIDO JAPAN(東京)
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参考⽂献
「彫刻の歴史 先史時代から現代まで」アントニー・ゴームリー、マーティン・ゲイフォード 著 ⽯崎尚、林卓⾏ 訳、東京書店 2021年
「森の掟 現代彫刻の世界」酒井忠康 ⼩沢書店 1993年
「⽇本習合論」内⽥樹 ミシマ社 2020年
⼤⿊貴之個展「連綿 ‒ ununterbrochen -」フィリップ・ツォーベル、H.N.セミヨン執筆による執筆テキスト Semjon Contemporary Berlin 2013年
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