コマーシャルギャラリーと貸画廊:日本の貸画廊システムとその背景を眺める
彫刻家の大黒貴之(@takayuki_daikoku)です。
現代アートのアーティストは制作した作品をどのように発表していくのでしょうか?
一つはギャラリーという場所で展覧会を実施して発表すること。ギャラリーがアートフェアに参加することが挙げられます。他にも発表の場として、美術館やレジデンス、自主企画などいろいろありますがここでは主にギャラリー事情についての内容となります。
アートに携わる人たち以外にはあまり知られていないこの現代アートの環境や事情を話します。
courtesy of the artist and Semjon Contemporary
日本のギャラリーのほとんどは貸画廊というレンタルギャラリー
日本の画廊(ギャラリー)は、ほとんど(9割くらい)が貸画廊(レンタルギャラリー)という展覧会のためのスペースを期間貸して収入を得ています。基本的に作品を売る営業はしないので、貸画廊の多くの顧客はアーティストになっているのが現状だと思います。
貸画廊で展覧会を行う場合、通常は場所代(場所の広さにもよりますが大阪、京都で数万~20万くらい)、展覧会のDM代(はがきサイズを自分でデザインして5千円くらい)、切手代(1000枚の送付で約5万円)、搬入出の運搬費など展覧会にかかる費用は全て作家持ちです。当然、作品の材料代も含みます。
貸画廊の企画展のときは、場所代、DMの費用は画廊が支出をしてくれますが、無名の若い作家が最初からいきなり企画展になることはほとんどありません。しかし、貸画廊が企画で展覧会を催すということはそのアーティストは、その画廊にとって一押しアーティストですので、それは日本型のコマーシャルギャラリーと言えるのかもしれません。
いずれにしても、先にも書いたように、ギャラリーの本来の役割は、作家の総合的なマネージャーであり、展覧会を企画して、作品をアート界やマーケットに紹介、販売することです。だから場所を貸すことが仕事ではないはずです。
戦後、日本においての貸画廊の役割は重要だった
貸画廊というシステムができ始めた戦後の日本では場所を提供する代わりにどんなことをやってもいいということから彫刻は台座の上に置くものであるとか、絵を壁にきれいにならべて掛けるものという概念から脱して、自由に作品が展示できるようになりました。
そこからインスタレーションという空間全体を使った作品が生み出されることになりましたし、実際に貸画廊での展覧会からコマーシャルギャラリーにつながっていき世界で活躍する作家が出てきたことも確かです。その意味では、日本で貸画廊というシステムは重要な役割を担ってきたと言えます。
また当時は貸画廊の場に、美術の学芸員や記者、作家たちが集まって議論になったり情報交換の場になっていたといいます。しかし、昨今では、全ての貸画廊を回る時間が彼らにはないので、実際に作品を観に来てくれることはなかなか難しいのが現状です。
展覧会の期間中(通常実質6日間)の間に来る人たちは100-150人程度で、そのうちの半分は作家のつながりです。それに貸画廊も増えすぎましたし、極端な話、お金を払えばだれでも展覧会ができるようになりました。
ドイツのギャラリーはほとんどがコマーシャルギャラリー
ドイツには基本的に貸画廊というシステムはありません。(数は非常に少ないですが、一部の貸画廊もあるようです)私の作品をドイツで取り扱っているSemjon Contemporary(セミヨン・コンテンポラリー)は、貸画廊ではなく作品を販売し、経営をしている現代アートのコマーシャルギャラリー(画商)です。ギャラリーのオーナーであるSemjon(セミヨン)氏は、作品に対してとても厳しい目を持っています。作品が良いときは、文句ひとつ言わずはっきりと良いと言ってくれます。当然、批判されたときは、腹が立つこともありますが、後々考えてみるとやっぱりもっと改正すべき点があったのだと気付きます。
以前、彼が「自分が100%良いと思った作品しか売らない」と私に言ったことは今でもよく憶えています。
近年(2010年頃から)、東京を中心に、若いギャラリストも出てきて、日本のアート環境は少しずつ変わりつつあります。そのような若きギャラリストたちやキュレーター、アートコレクターが今後も日本から出てくることを切に願います。日本と世界とのアートシステムを世界と同じルールにしていくことが日本のアートマーケットを広げることにもつながっていきます。それには、国のバックアップが必要となります。特に税制の改変が必須だと私は考えます。
参考書籍
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