日本の現代アート環境へソフトパワーの充実を:岸田首相がアート振興の推進を明言
彫刻家の大黒貴之(@takayuki_daikoku)です。
2022年1月19日の衆議院本会議で、岸田首相が「アート振興を推進していく」と明言しました。
岸田首相は「わが国の文化資源やアート作品は、観光を通じた地域活性化などに貢献する資産であり、わが国に対する世界の憧れを生むソフトパワーの源泉でもある。これらを将来にわたって活用するため、世界に魅力を発信し新たな創造を持続的に支えることが重要」と発言。
また「世界的な現代アーティストの輩出につながるよう、作家の国際展開の支援や、作品価格の透明性向上等を通じて取引市場の活性化に注力するなど、文化アート振興を推進していく。独立行政法人、国立美術館についてはアート振興の中核として、優れた学芸員の育成による世界的なコレクションの形成、活用や、国立新美術館におけるアートの魅力のグローバルな発信など、抜本的な機能強化を進めていく」とも発言しました。
日本の首相が国会において「現代アーティスト」という言葉を使って明言したことは、おそらく初めてではないかと思います。
バブル時代、日本全国に美術館など多くの立派な建物が建設されました。今では、国公私立を合わせると1000以上の美術館や博物館が日本にはあります。しかしその多くが経営難に陥っていると聞きます。アート作品を鑑賞したり、保存する場所として美術館は必要です。それに伴って、アート作品を生み出すアーティストや展覧会を企画するキュレーター、アートコレクターなどのソフトパワーが必要です。そうでなければ美術館は、ますます「箱化」していくのではないでしょうか。それは非常にもったいないことだと考えます。
「ハード(箱物)」から「ソフト(中身)」の時代へ
「ハコモノ(箱物)」という言葉を聞いてもう久しいです。大学時代に「日本では作品を梱包するための箱が重要だから、しっかりした綺麗な箱に入れなきゃ駄目だ」と聞いたことを覚えています。ドイツでは作品が売れてお客さんが絵や彫刻を持って帰るとき、傷がつきにくいようにとか手垢が付かないようにとか最低限の梱包しかしないことがほとんどです。(もちろん飛行機や船便などの長距離運搬は別ですが)
日常な例を挙げると、ケーキを買っても梱包する箱はありません。下に紙皿を敷いて、後は紙でサッと包んでおしまいです。確かに、お客さんや友人知人のところにお土産で持っていくときには何か物足りなさを感じますが、大切なのは外見の箱より中の商品なのですから、そういう意味では理に適っているわけです。
箱というハードを立派につくっても肝心の中身であるソフトをしっかり充実させなければ、ハードをつくった意味がなくなります。アートでいうならハードは美術館という建築物、ソフトはアーティストの作品、キュレーター、アートの環境、マーケットの流通システムなどになります。つまりソフトパワーを育てる環境が必要となります。
美術館という立派な建築は、街並みを豊かにしたり、街のシンボルとなる物ですから重要なものに間違いありません。そして、それに付随にする中身(ソフト)が伴うことがとても大切です。パソコンにおいても、WindowsやMacというOSがインストールされていなければパソコンはただの箱です。最初にも書いたように日本には1000を超える美術館や博物館というハードがあります。あとは、それを活かすソフトが必要になります。それは、アートに関わる人の育成に他なりません。
政府のアート振興推進がどのようなソフトパワーを生み出していくのか、今後も注視していきます。
参考書籍
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