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彫刻家の大黒貴之(@takayuki_daikoku)です

近年、日本各地で○○ビエンナーレやトリエンナーレが開催されることが多くなりました。作家が作品を発表する場として、そして町おこしの一環として芸術祭が開催されて、実際多くの人が会場に訪れて「現代アートってなんだ?」と考えながら体験してもらうことは、アートの裾の尾が広がっていく過程の一つだと思います。さらに現代アートを活性化させていこうというのであればそれと平行して、よりマーケットを広めていく必要性があるのはないかと私は考えます。

日本の多くの人にとって、アーティストとはどのような存在なのか?

以前、ある画家の方と話しをしていたのですが、日本には国立、公立、私立などをすべて含めると 1000もの美術館があるといいます。しかし、その多くは経営難に陥っているそうです。「展覧会を開催しても人が来ない」というのがその主な理由だそうです。

日本はバブル時代には、その有り余る資金力で海外の有名絵画(主に近代絵画)を購入したり、日本各地に美術館を建てまくりました。60年代くらいから「これからは日本は現代アートが来るぞ!」という流れがあったようです。当時団体展からドロップアウトして活躍し始めた若い作家たちの作品を購入したり倉庫に管理していた、先見の明があった画廊などは、その波に乗って、管理していた作品が一気に美術館に収蔵されていったといいます。当時の日本の美術界(特に百貨店ギャラリー系)で活躍していた画家の方の話によれば、描いても描いても追いつかず描く前から注文が入る状態だったそうです。

本当はこのときに、アートのインフラをつくっておけばよかったのですが、大方は投機目的で美術品を買う人たちだったので、バブルが弾けた後は「あ~、もう美術なんてこりごりだ」という結果になってしまったというのが当時の状況ではないでしょうか。

日本の美術界はとても複雑な構造で形成されて、大きく分けると以下のような構造になっています。

1、日展、院展、二科展、行動展などの美術団体。
2、百貨店が持つ画商
3、貸し画廊
4、近現代アートを取り扱う画商
5、現代アートを専門に扱うギャラリー

ドイツには、○○芸術協会などという組織のようなものはありますが、基本的に百貨店の画商や貸画廊(レンタルギャラリー)という日本のようなシステムはありません。

1~5で展示されたり販売されている全ての作品は、アート(美術)という認識になります。しかし、すべてが現代アートというジャンルの作品ではありません。それに加えて、テレビをつけると芸能人アーティストが紹介されたり、タレントやミュージシャンもアーティストとして紹介され、そこに○○アーティストやクリエーターという言葉まである。「そもそもアートって何?的な」現状で、もうなんでもアート状態になっているように映ります。どうやら「アート」いう言葉だけが勝手に一人歩きをして、それぞれが都合の良いカタチでアートという言葉の定義を持っているようです。そして、現代アートはよくわからないものという認識に・・・

アートという概念は明治以降に日本にやってきた

アートは、ギリシャ時代から連綿とヨーロッパの歴史の上に構築され、それが印象派以降、教会や貴族のお抱え画家から芸術家という独立した存在へと変貌していきます。そして、戦前はパリやロンドン、戦後はアメリカを中心に現代アートして世界に根付いく歴史があります。日本には、日本美術の歴史がありますが、「ヨーロッパには、アートというものがあるらしい」「フェノロサが、桂離宮が絶賛しているぞ」という背景をもとに明治以降に編集されたもので、平安時代や江戸時代にいわゆる「アート」という概念は存在しませんでした。ちなみに、このArtという言葉は、西周という明治時代の思想家が「美術」という日本語にしたものです。

浮世絵も、当時は芸人のプロマイドや雑誌みたいなものでした。今でいうとモデルや芸能人のポスターみたいなものです。しかし、印象派の画家たちが浮世絵から多大な影響を受け、ジャポニズムという言葉が生まれました。浮世絵に影響を受けた彼らはどこで浮世絵を見つけたのでしょうか。当時、パリで万博が行われ、日本からは陶磁器が運ばれ展示されました。それらを運ぶためにつくられた木箱の中にクッションとして詰められていたのが、浮世絵だったのです。今日では、世界の美術館などでサンサンと展示される浮世絵ですが、当時はクシャクシャに丸められて陶磁器のクッションになっていたのです。今で言うと雑誌や新聞紙と同じ扱いだったのです。

このように日本のアート界の構造や歴史を少しでも知ってみると現代アートに対する見方も変わってくるかもしれません。日本では、現代アートってわからないという認識に反して欧米に加えてアジアでも、ますます現代アートが認識されているようです。一方で、現代アートの分野において世界と日本は乖離しているのでこれを是正していく必要があるという認識が美術界や行政に出てきていて、日本の現代アートの環境をもっと整えていこうとする動きが出てきていることも確かです。


参考文献


大野左紀子さんの著書「アート・ヒステリー-なんでもかんでもアートな国・ニッポン-」
日本のアート界を大変よく分析なさっておられます。是非、ご一読を!


参考文献


 

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