コンセプチュアルアートは脳内で完成するってどういうこと? コスースの3つの椅子
彫刻家の大黒貴之です。
コンセプチュアルアートは1960年代に登場した動向で抽象表現主義、いわゆる「絵画のための絵画」の最終形と言われるミニマル・アートに反発したアート概念です。それまでの絵画や彫刻などの表現技法とは異なる手法を用いてコンセプトやアイデアを強調した作風であると言えます。
その代表作家ともいえるジョセフ・コスースの作品を今回は取り上げます。
コンセプチュアルアート コスースの3つの椅子
Photo credit: La case photo de Got via VisualHunt / CC BY
この作品は、ジョセフ・コスースが1965年に発表した「1つの、そして3つの椅子」という代表作で、コンセプチュアルアートの先駆的な作品だと言われています。
展示されているのは、本物の椅子、写真の椅子、椅子の定義が書かれている文章です。
一見だけでは、よくわからない作品だと思います。
いわゆる「なんでこれがアートなの?」になってしまう部類の作品です。
しかし、よくよく鑑賞してみると椅子は本来座ることでその機能を保つのですが、ここで登場する椅子は「写真の椅子」であり、「辞書に書かれた文章の椅子」であり、また本物の椅子でさえも「美術館に展示されているため座ることができない椅子」であるということがわかります。
同時に、「椅子という概念(イデア)」が頭にパッと浮かぶことになります。
鑑賞者がその事実に気づいたときに、「あれっ?椅子って一体、どういうものなのだろう」と頭の中がグラグラする感覚を覚えることになるのです。
また、ジョン・レノンの妻であるオノ・ヨーコもコンセプチュアルアートの代表的な作家です。ぼくがよく覚えているのは、紙の中央に水平線が一本、描かれている作品です。よく見ると、その線の下に「この線は、円の一部である」という文字が。そうすると「あれれっ?これって直線じゃなくて円だったの!」って気づくことになるわけです。
このように、作品自体が発する何か感覚的な、或いは感情的なことを提示しているのではなく「作品に対するアイデアやその作品がつくられたプロセスにこそ意味があり、その過程が美しいのだ」というのがコンセプチュアルアート、つまり概念芸術と言われるものなのです。
またコンセプチュアルアートが登場する以前にマルセル・デュシャンの泉がその布石として存在していたことを知るとさらに造詣が深まるのではないでしょうか。
このコンセプチュアルアートは、今日では、現代アートの本流の一つになっています。しかし、コンセプチュアルというだけに作品に対しての言葉(コンセプト)が必要になるため作品の制作プロセスやそれに込められた意味を知らないとどうしても難解になってしまうことも否めません。
コンセプチュアルアートは、20世紀の激動期に生まれた
2011年に訪れたアートバーゼル42では、ピカソやムーア、クリムトから現在の作家まで幅広く展示されていました。その中でも50年代、60年代の作品が多く展示されていた印象を受けました。
多数出品されていた50-60年代頃の作品は、ルチオ・フォンタナ、ジョン・チェンバレンなどのように構成、色彩、筆跡、マテリアルなど作品だけで面白みを感じることができる作品が多くありました。日本人作家では、白髪一雄や山口勝弘など日本フルクサスで活躍した作家が日本のギャラリーから紹介されていました。
コンセプチュアル・アートは60年代後半から70年代初めにかけての激動期に生まれてきます。作品のアイデアや完成するまでのプロセスが重要であるというものです。「作品のコンセプトは?」と問われることは、このコンセプチュアル・アートの文脈が関係しています。このアート概念の最初に系譜するのはマルセル・デュシャンの泉とされています。
1960年代の時代背景は、ベトナム戦争や中国の文化大革命、またフランスでは5月革命がおこり、日本でも安保闘争など一連の学生運動が起こった時代です。当然、これらの国際情勢や社会背景が、作家に及ぼす影響はとても大きかったと考察します。第二次世界大戦で、世界中が混乱しそれぞれの国々が新しい価値観や方向性を模索していた時代でもありました。
コンセプチュアルアートのまとめ
1.1960年代にミニマル・アートに反発して登場したアート概念。
2.実質的な作品自体に美しさを求めているのではない。
3.作品に対するアイデアやその作品がつくられたプロセスにこそ意味がある。
4.故に概念芸術と言われる。
5.しかし、作品がつくられた背景を知らないと難解になってしまう。
6.マルセル・デュシャンの泉がコンセプチュアルアートの源流である。
7.目下、現代アートの本流の一つになっている。
8.コンセプチュアルアートは20世紀の激動期に生まれてきた
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