マルセル・デュシャンの「泉」。で、なんでこの便器がアートなの??

      2017/01/04

彫刻家の大黒貴之です。

現代アートって、わからないという言葉をよく聞きますが、
歴史や作品背景を知ればこのアートジャンルも面白いんですよ。

ということで今日は、現代アートの父ともいわれている
マルセル・デュシャンのお話をしますね。

その便器は「泉」と名付けられた

マルセル・デュシャン 泉Photo credit: filosofianetdadaismo via VisualHunt.com / CC BY

かつてマルセル・デュシャンという芸術家がいました。

今からさかのぼること、100年前の1917年、
ニューヨークのアンデパンダン展という
誰でも参加できる公募展が開催されました。

デュシャンは、男性便器にR.MATTという
架空人物のサインをしてその公募展に匿名で応募しました。

しかし「なんじゃこりゃ!こんなもんはアートじゃないっっ!」と
審査員たちから罵倒され
誰でも参加できるはずのこの公募展に出品を拒否されました。

その後、その作品は行方不明になり、
今、美術館で見ることができる便器の作品
つまり「泉」はレプリカです。

で、この「泉」がなんで、現代アートの世界で
最重要作品の1つに位置づけられているのかというと、
この作品はアート作品の観方、或いは考え方を変えたと言われているからです。

男性便器は、通常では用をたすのに使われるものです。

ですので、本来はアート作品でもなんでもありません。
しかし、デュシャンはその便器にサインをして
美術館に展示されたらどうなるのか?という問いを突き付けたわけです。
(ちなみに「泉」というタイトルは
フランスの新古典主義の画家ドミニク・アングルの「泉」から
ヒントを得ていると言われています)

鑑賞者の頭の中で作品が完成する

便器を見てもただの便器。

しかし、便器にサインされたものが美術館という
権威のある場所に展示されたとき、
果たしてそれは便器なのか?それともアート作品なのか?

デュシャンの「泉」を前にしたとき
鑑賞者は、頭の中にたくさんの??が点灯するはずです。

「なんでこの便器がアートなの?」と。

しかし、その過程で彼の考えを知ったとき
頭の中でハッと何かに気づくわけです。

つまり「アート作品は目前にある美しい絵画」という概念から、
「その作品を起点にして、鑑賞者の頭の中で完成するのがアート作品だ」
というコペルニクス的転回が起こったわけです。

この「泉」騒動は、時を経て
「便器事件」と呼ばれるようになりました。

デュシャンの考えはコンセプチュアル・アートへと
つながる原動力にもなり、その後の作家たちに
多大な影響を与え続けています。

しかし逆説的に言えば、100年経った今でも現代アート界は
このデュシャン的呪縛から逃れられずにいるのです。

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