梱包するアーティスト、クリストさんが東京藝術大学で講義をする様子を
インターネットを通じて拝聴することができました。
クリストさんは、布でいろんなものを梱包するアーティストとして知られています。
彼は奥さんのジャン・クロードさん(1935-2009)と一緒に
クリスト&ジャン・クロードという名前で活動を続けてきました。
初期の作品は、ドラム缶や乳母車など比較的小さなものから出発していますが
その規模は次第に巨大な建築物をも梱包することになります。
ドイツの国会議事堂やパリの歴史ある橋「ポン・ヌフ」さらには
島までも布で覆ってしまったのです。
当然、そんな大きな計画は一朝一夕に成ることではなく
膨大な資金と人力、時間がかかるものです。
「オーバー・ザ・リバー」という作品は
アメリカのコロラドの川の上におよそ10kmに渡って
特殊な布を天井のようにしてかけていくプロジェクトです。
ちなみにこのプロジェクトは1992年から2011年まで、すでに19年が過ぎ
10億円以上の資金投入されています。
そして、作品の設置や布を創ることに多くの技術者が尽力し
場所の使用許可を取るのに膨大な時間と人材を要しています。
↑2011年に進行中のプロジェクト「オーバー・ザ・リバー」のドローイング
これらの活動資金は、スポンサーを募ることなく全て
クリストのドローイングや小品を彼の奥さんである
ジャン・クロードさんと共に売って資金を集めているのです。
スポンサーが付くと自分がしたいことを100%実行できないからでなのでしょう。
何かを想像して現実のものにするには、多くの時間とお金、人材が必要なのです。
美術は自分たちの彼岸にあるように聞くことがたびたびありますが、
クリストのような活動の仕方を眺めてみると
アートも実社会と密接に結びついているのだということがわかります。
また、非現実なものを現実にすることは長期戦なのだと改めて感じました。
クリストの作品を目の当たりにした人たちは
その迫力に驚かされ、それまで持っていた価値観を揺さぶられることになるでしょう。
そして、梱包されたそれらの作品は数週間で撤去されることにより、
作品は観た人びとの頭の中に残り続けるのです。