彫刻家の大黒貴之です。
「ニューヨーク―芸術家と共存する街」という本をご存知ですか?
1999年に出版されたニューヨークでの芸術家と
彼らを取り巻く社会環境のことが主に書かれている本で
ある人に紹介してもらって読んでみました。
具体的かつ、聡明に書かれているので、とてもわかりやすい本です。
ニューヨークにはプロの芸術家の定義がある?
日本では、芸術家のプロとアマの境界線が、曖昧すぎます。
だから誰でもアーティストやなんでもアートになってしまいます。
ところが、この本を読んで衝撃を受けたのは ニューヨークでは、
「プロの芸術家」という定義をちゃんと設けているということ。
そして、作品を売って食べている人だけが
プロの芸術家という認識ではないのだということです。
正直、ぼくも作品だけで食べている人がプロだと思っていました。
制作活動だけで生活をしていくことは多くの作家が望むことでしょう。
しかし、実はそれだけが「プロの芸術家」では無いという
ニューヨークの社会的な考え方に驚きを隠せませんでした。
プロの芸術家としての証明書
未國「BONSAI 2012 Berlin」Photo:Takayuki Daikoku (本文のイメージ写真です)
ニューヨークでは、ニューヨーク市文化局という機関があって、
そこがプロの芸術家としての証明書を発行しているという。
では、具体的にどのような人がプロの芸術家と認知されるのかというと
(以下抜粋)
1.商業的芸術ではなく、純粋芸術
ーすなわち絵画、彫刻、振付、映像、作曲等 その他を含むものー
の創作を不断に進行させている個人。2.自己の表現形態に真剣かつ不断に傾倒してきたことを証明できる個人。
3.現時点でも、その表現形態に専心、従事している個人。
ここいう、「専門の職業(プロフェッショナル)」とは、
その者が生涯その表現形態に従事するという
その専心そのものを意味するのであって
その創造行為や努力が金銭的にどれくらいの報酬を
もたらすかという額高の問題ではない。また、プロの芸術家として制作してきた作品の集積が
5年の歳月に及んでない者、および学生、
商業に従事するアーティスト(デザイナーなど)、
趣味の芸術家、芸術制作作品が第一の職業というのでない人などは、
証明書の申請資格はない。(抜粋終わり)
その他にも、たくさんの参考にするべき内容があるのですが、
ここでは割愛させていただきます。
芸術家と社会との接点とは
芸術家と社会との接点を考えるとき、
彼女/彼らの社会的な環境を整えていくことはますます大事になります。
作家は作品創りに集中できることが一番いいのですが、
このような環境が整っていない以上、
作家と社会、作品と社会 とが結びつくことは難しいのはないでしょうか。
芸術が社会の日常的なものになること。
芸術家と社会がもっと結びついていくようになること。
そのようなことを浸透させていかないと、
どれだけ素晴らしい作家や作品、 素晴らしい美術館ができても、
その素晴らしさは半減するのではないかと危惧します。
日本でも少しずつ浸透しつつある?
日本でも、少しずつ特に首都圏以外の地で
社会と芸術を結び付けていく活動がでてきているようです。
しかし、ほとんどが民間レベルに委ねられており、
資金繰りでも困難になっているようです。
それゆえに継続が難しい現状です。
多大な時間がかかることは予測できますが、
芸術をもっと社会に浸透させていく活動を
つまり芸術、美術では特に現代アートのインフラを
整えていく必要が日本にはあります。
「ニューヨーク―芸術家と共存する街」
もう古い情報になっているかもしれませんが、
一読する価値は十分にあると思いますよ。
(2009年5月14日「ニューヨークの芸術家と社会環境」を加筆添削した文章です)
↑日本には作家に場所を貸す貸画廊と
作品を販売して経営をするコマーシャルギャラリーというシステムがあります。
それらの違いはどのようなものなのでしょうか。
↑アートは自由でなければならないとも言われますが、
現代アートのマーケットを眺めるとそこには
どうやら暗黙のルールがあるように映ります。
↑コマーシャルギャラリーのギャラリストとは
どのような仕事をする人なのでしょうか。
ドイツ人ギャラリストとの交流からの手記です。