テレビばかり見てるとバカになるってどういうこと?小津安二郎監督の60年前の予言:お早う
彫刻家の大黒貴之(@takayuki_daikoku)です。
テレビや漫画ばかり見るのはよくないと言われて久しくなりました。私も子どもの頃はテレビや漫画ばかり見ていましたが、24歳の時にドイツに渡って以来の16年間、ほどんど見ることはなくなりました。
テレビばかり見るのを控えたほうがいい理由として想像力が欠如する危険性があると言われています。特にテレビは、画像と音が次々と流れてきます。頭の中でその情報を処理する暇もなく時間が経過していきます。つまり、鑑賞者が想像力を働かせて楽しむという試みがほとんど行われないのです。
「やっぱり見た目が9割」竹内一郎著・新潮新書の中でテレビについて触れらていました。とても興味深い内容でしたのでシェアしたいと思います。
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竹内氏は著書の中で「なぜテレビや漫画ばかり楽しむのが良くないのか」という点において「字を絵にする」能力が磨かれない危険性があるからだと指摘されています。つまり言葉を頭の中でイメージできる能力が鍛えられないということです。言葉をイメージできないことは、イメージを言葉にできないことにもつながりそれは人とのコミュニケーションの幅が狭くなることを意味しています。例えば、自分が経験したことや見たものを言葉でうまく表現できないことになる可能性があります。
私はドイツに6年半ほど滞在していました。ドイツ語は決して上手くはありませんが、ドイツ語でコミュニケーションするときに1つ気づいたことがあります。それは頭の中でしっかりしたイメージを持って話すと伝わりやすいということです。逆に相手の言葉も理解できるようになってくることは、ドイツ語を通してヴィジョンが頭に浮かんでくるということだと思います。
母語である日本語を使っていると当たり前過ぎてそれほど意識していませんが言葉のやり取りはイメージを飛ばし合うコミュニケーションだということがわかります。
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外国語を学習していると最初はさっぱりわかりません。理解ができないというよりイメージを持つことができないのだと思います。それは真っ暗な暗闇の中を歩いている感じです。ところがわかってくるとその暗闇で周囲にある森や花や太陽などのイメージがボワァと浮かんでくるような感じになってきます。
もちろん語彙力や文法力、ヒアリング力、スピーチ力は関係しますがドイツ語で会話の中から人との言葉のやりとりはイメージのやり取りなのかもしれないと思いました。あくまで個人的な体験ですから、これが正しいのかどうかはわかりません。しかし、言葉というものは相手に自分のイメージを伝えるための1つのツールであり手段ですからどれだけ文法が上手く流暢に話せても伝わらなければ意味がありません。
「おはよう」という挨拶は無駄なものなのだろうか
ジャーナリストの大宅壮一氏は、テレビが日本に普及しだした1955年頃に「一億総白痴化」という言葉でそれを批判しました。また、ほぼ同時期である1959年に小津安二郎監督の名作「お早う」が上映されました。テレビが日本の日常に普及していく様子とその問題提起を淡々とコミカルに描かれている様子は素晴らしいものがあります。
日本の家庭を背景にして、日本が抱えるであろう問題を社会に問い、未来への警鐘を鳴らす小津作品のハイクオリティには驚きを隠せないと同時に、大いに考えさせられるものがあります。
概要を話しますと、戦後、日本が復興していく最初の予兆としてテレビが台頭してきます。ある家庭の二人の兄弟がそれを欲するのですが、その家庭の厳格な父は、そんな無駄なものはいらないとはねのけます。それに対して、二人の兄弟は、子どもなりの反抗し始めます。そして、大人たちも人と会ったら意味も無いのに「おはよう」と挨拶をするじゃないか。
「それこそ無駄なことじゃないか!」
子どもたちはそう声を上げて叫ぶのです。小津監督が60年後の今の現代を予測したかのようなシーンとセリフ。テレビが流す情報とそれ自体の行為には意味が無いといえば無い日常の挨拶。でも、その挨拶をきっかけに、会話が始まりますし、その挨拶を通じて、その人のその日の気持ちなどがなんとなくでも伝わる大切な入り口になるのです。
映画「お早よう」を見ると、もはや挨拶ですら無駄なものになるかもしれないと小津安二郎監督は60年前の予言していたかのようです。
テレビを付けない習慣、置かなくても十分生活はできる
我が家はテレビを置いていません。厳密にいうとテレビという箱だけを置いている状態です。ですので、帰宅したらとりあえずテレビをつけて見る番組もないのにつけっぱなしということはありません。また子どもには極力、絵本を読み聞かせをしてきました。3歳頃から急速に言葉の理解力や語彙力、表現力が増え始めます。また夢を見て笑うことや泣くこともしばしばあります。その光景を見ていると、彼女/彼らの中で「想像力」が生まれていることがわかります。
この時期に絵本を読み聞かせることは本当に重要なことだと私は考えています。文字だけではイメージするのが難しくても絵本ならば、絵を付随して読むことで子どものイメージ力を膨らませる助力になります。また何十年にも渡って読み継がれている絵本は考え抜かれた言葉使いや配列、それに子供の想像力を掻き立てる絵や色彩が盛り込まれています。
言葉はイメージという想像力を伝えるためのツールであり技術です。「言葉」と「想像力」。それらはどちらも人間だけが持つ素晴らしいもの。
「テレビや漫画ばかりを見ていたらバカになるよ」と大人たちは言いました。
つまりそれは「イメージを言葉で伝え、言葉からイメージを膨らませることが困難になる危険性を孕んでいるよ」ということを示唆しているのです。
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参考文献
参考映画
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