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彫刻家の大黒貴之(@takayuki_daikoku)です

昨今、現代アートというキーワードをよく聞くようになってきました。しかし、日本のアート・ワールドを外から眺める人からすると複雑な構造になっていてよくわからないという人が多くいるのではないかと思います。今回は、自身が今までドイツや日本で見聞してきた中からコマーシャルギャラリーとレンタルギャラリー(貸画廊)は何が違うのかを書きます。


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そもそもレンタルギャラリーとコマーシャルギャラリーは根本的な違いがある

日本のアートギャラリーは9割くらいがレンタルギャラリーだと言われています。

レンタルギャラリーというのは、名前の通り、作家や展覧会をしたい人が日数によって決められた場所の賃料を支払って作品を展示するギャラリーのことです。日本の多くの貸画廊では1週間(実質6日間)のスケジュールで展覧会が組まれています。レンタルギャラリーの中には、企画展をするところもあり、その場合は賃料は発生しませんし、案内状も作成してくれます。

六本木の国立新美術館をご存知ですか?私も訪れたことがあるのですが、黒川紀章氏の生前最後の建築としても知られていて、とても立派な建築です。この美術館は英語表記するとナショナル・アート・センターとなります。しかし、そこにはミュージアムという言葉が入っていません。また美術館という名前がつけられているにも関わらず作品のコレクションがないのです。

何を言いたいのかというと、この美術館は大きな貸スペースになっているのです。誰が借りるのかというと日展や二科展などの団体です。国立新美術館という名が付き立派な建築物でもあるにもかかわらず世界基準を満たした美術館としては機能していないというなんとも摩訶不思議な建物になってしまっているのです。<参考文献:現代美術コレクター(講談社現代新書)高橋龍太郎著>私はこれまでにベルリンや日本のギャラリーを中心にグループ展に参加をしたり個展を開催してきました。ベルリンのギャラリーが開催する展覧会の期間は、4~5週間というのが通常です。日本ではインターナショナルに動いているコマーシャルギャラリーの展覧会情報を見ると3~4週間というところが多いようです。

レンタルギャラリーは基本的に場所を作家に貸し出して収益をあげています。一方、コマーシャルギャラリーは作品を売ることによって収益を上げています。現在、私の作品を取り扱っていただいているベルリンや東京のギャラリーは後者になります。


Photo by Aleksandar Savic on Unsplash

しかし、日本において貸画廊(レンタルギャラリー)が果たした役目は大きかった

一方、日本の現代アートの領域においてレンタルギャラリーは大きな役割を果たしたことも事実なのです。もともと日本の近現代美術は団体展というグループの結成がスタートとなっています。日展がその起点にあり、そこから二科展、行動展などへと分岐していきました。

大きな団体をつくることで、作家同士(師匠と弟子)が情報交換したり、制作のモチベーションを保てることができたり年に何度かの展覧会が実施され作品の発表の場が持てること等が挙げられます。そして、それらの団体展は社会的にも認知度が高いため、作品や活動への関心にもつながりやすいとも言えます。戦後、欧米から「現代アート」という概念が日本に入ってきます。また50年~60年代頃から先の団体から飛び出して一匹狼として活動していく作家たちが増えました。

その作家たちの作品発表の場として貸画廊は大きく貢献していくことになります。

お金を払って場所を借り、そのスペースを好きに使っても良いということからそれまでの団体展では表現できなかった様々な作品が登場しました。団体展の規定外の絵画、台座を必要としない彫刻、インスタレーションなどがその例です。また団体展から飛び出した作家たちの貴重な情報交換の場でもあったといいます。当時はまだ現代アートをする作家も少なかったのでオーナーは場所を借りる作家を探すのに苦労したとも聞きます。貸画廊(レンタルギャラリー)での活動からコマーシャルギャラリーや美術館の展覧会につながっていくというのが1つの道筋でもあったようです。ですので、戦後日本美術界の作家にとっては大きなパートナーとして貸画廊の存在があったわけです。現在でも貸画廊としてだけではなく企画展として展覧会を実施なさっているオーナーもおられます。

ドイツも含めて世界的な基準で見るとアートギャラリーといえばコマーシャルギャラリーのことです。そのギャラリーは展覧会を企画し、作品を販売することによって運営しています。(しかし、ごく稀にベルリンや米国にも貸画廊があると聞きます)

以前、ベルリンのギャラリストに「なぜ4~5週間の展覧会を実施するのか」と聴いたことがあります。彼は「最低4週間なければ、十分にアーティストや作品の広報販売ができないからだ。できれば6週間の期間がいい」と教えてくれました。確かにそれくらいの期間がなければ買う人にとってその作品がいいのかどうか分からないでしょう。

自分が飾りたい空間にその作品は合っているのか、本当に購入したいのかなどを考える時間にもなります。それにギャラリストが展覧会の広報してその人たちが足を運ぶスケジュールも組みやすくなります。現代社会で生活する人は忙しいので1週間の展示では来場者も予定を組むの難しい現状です。

一方、特に2010年以降、東京を中心に国際的な流れになってきているのも確かです。そして、日本には素晴らしい作家がいて、作品も生み出されています。現代アートの環境がより整備されてアーティストの活躍の場がもっと広がることを願ってやみません。

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