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彫刻家の大黒貴之(@takayuki_daikoku)です。

自宅周辺は今朝から雪が舞い始めすっかり白い景色に変わっています。雪が積もると必ずと言っていいほど、田んぼに車が落っこちています。くれぐれも安全運転を心がけましょう。冬になるとドイツの冬を思い出します。ドイツでは冬を7回経験したのですが、顔が痛くなる寒さです。

よく覚えているある日は最低気温マイナス15度、最高気温マイナス8度という気温が続いた時がありました。また、2013年3月にはマイナス16.4度という日もありました。外に降り積もった雪は全く溶ける気配がなくずっと冷蔵庫の中にいるのと同じです。

車が凍るドイツの冬はまるで冷凍庫のよう

2011年の第二次渡独で現地に住み始めたころある日本人の方から譲り受けた車に乗っていました。長年大切に乗っておられた車でした。私が乗った走行距離も含めると300000キロ以上は走っていました。渡独した2か月後にその車でラーテノウからスイスのバーゼルまで片道10時間総走行距離2500kmの旅は今でもよく記憶に残っています。

ドイツの冬の寒い日、仕事場にその車で行こうとドアを開けようとすると開きません。凍っているのです。前も後ろの乗車ドアも開きません。最後に残った後ろのトランクドアはかろうじて開いたのでそこからまるで忍び込むように運転席までたどり着いてエンジンをかけた日も何度かありました。


そしてフロントガラスを見ると水の結晶ができています。外側に付いているのかなと思いきや、それは車内にできた結晶だったのです。古い車だったので、外の空気が車内に入って来ているのでしょう。氷が溶けるまで車を暖めてからいざ出発です。

振り返ると印象深い経験でした。それに冬の日照時間の短さといったら半端ありません。


曇天が1週間とか続くと気が滅入ってきます。冬になるとドイツでは鬱になる人が増えるとよく聞きますが、あの寒さと暗さが続くとそうなるのも頷けます。私は寒さが苦手なので、暗くて寒い冬が早く過ぎ去ることを願うしかありませんでした。

仕事場に行くときは、上着は5枚、ズボンは3枚着込んでいきます。室内の暖房器具はガスストーブが1つあるだけでした。部屋でドローイングや彫刻を制作し、机の前にある窓からかすかに
入って来る太陽の光と熱を拝んでいました。そのような中で、ブランデンブルグ州の野外彫刻展などの作品を黙々と制作していました。

人はなぜ寒い地域に住み続けるのか?ベラルーシ人の少年が言ったこと

寒さについて、私が疑問に感じていたことがありました。「なぜ人は寒い土地に住み続けるのだろう」と。ドイツは寒いといっても、もっと寒い地域もあるわけです。生物学的に寒い場所よりも暖かい場所のほうが生活はしやすいにもかかわらず寒い場所で住み続ける人が多くいるわけですよね。

そのことをずっと疑問に思っていました。もちろん、その土地から離れられないということもあるのでしょうけど、それは今、国境があって国という単位で区切られるからです。

でも、もっと以前からその土地に住んでいたエスキモーやモンゴルの遊牧民の人たちはずっとそこに住み続けているわけです。だから、もっと違う理由があるのだろうとも思っていました。

以前、鎌仲ひとみ監督の「小さき声のカノン」というドキュメンタリー映画をみました。その中でベラルーシの少年少女たちが保養をするために北海道の施設内で生活しているシーンが映りました。

彼らにインタビューをしています。「今、保養に来ていてどういうことを思いますか?」と。その会話で、ある少年が「故郷の寒さが懐かしい」と言ったのがとても印象に残っていました。ベラルーシという国は白ロシアともいわれる国でチェルノブイリ原発事故で甚大な被害を受けた国です。地理的にはポーランドの東側に位置し、ドイツと同じようにとても寒い気温です。そこで生まれ育った子どもたちは、その寒さにまた触れたいというのです。

そういえば、私のドイツ人の友人も、「今年は暖冬だから、もっと冷え込まないとなんだか調子が狂うよね」とか「ドイツ人にはあの冬の寒さが必要なのよ」というのです。


私は、その言葉を聞いた時にそれまでの謎が解けたように感じました。寒さを懐かしむ郷土愛があるから人はそこに住み続けてきた。自分が知らないだけで、その寒さの中にも美しいと感じることやその場所でしか見れない風景があるのだなぁと。

そういえば、ドイツの冬の大イベントである1か月におよぶクリスマスシーズン。クリスマスマーケットの明かりと賑わいやそこで飲む、ホットワインやアイスバインという豚肉料理。ソリや雪遊び、凍てつくような夜にザックザックと歩く雪の音と肌の感覚。白い水平線に夕日沈むなんともいえない赤と青。それらの光景に懐かしさを覚えます。


確かに、暖かい土地ではそのようなことは味わえないですから。そう考えると、その土地の気候が人間に与える影響はとても大きいものでそれが文化をも形成しているということがわかります。日本は大寒の日があとしばらく続きます。「寒い寒い」という冬の口癖も、春になると「暖かくて気持ちいいねぇ」になり夏の猛暑には「暑い暑い」に変わり、冬の寒さをまた懐かしむのでしょう。

雪が舞う日本の景色を眺めながら、ドイツの冬を想うこの時間です。


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